レビュー著者: 漫画よしあし
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溺れるナイフ の感想と評価(良いところ、悪いところ)
良い所
- 10代の、今にも破裂してしまいそうな脆くて鋭い自意識の描写に、読んでいて息が苦しくなるほどの衝撃を受けました。ジョージ朝倉先生の描く夏芽とコウの「神様」のような輝きと、その崩壊に、魂が抉られるような体験をしました。
- 浮雲町の閉塞感のある空気や、湿り気を帯びた風景の描写が本当に見事で、自分がその街に迷い込んだような錯覚を覚えました。あの特有のヒリヒリとした緊張感が、作品全体を支配していて、ページをめくる手が震えました。
- ただの恋愛漫画ではない、暴力やトラウマ、そして再生を巡る重厚なストーリーに圧倒されます。一歩間違えれば破滅してしまう危うさを孕んだ二人の関係性が、あまりに美しくて、かつ恐ろしくて、目が離せませんでした。
- 当て馬役の大友くんの、太陽のような明るさと優しさが、この救いのない物語の中で唯一の救いでした。彼が夏芽に向ける一途な想いと、その結末に、自分でも驚くほど涙が溢れて止まらなくなりました。
- ジョージ朝倉先生の、ラフでありながらエモーショナルな画力が作品のテーマに完璧に合致しています。キャラクターの表情一つで、言葉にならない痛みがダイレクトに伝わってくるような、奇跡的な筆致を感じる名作です。
悪い所
- 物語の展開が非常に重く、精神的にかなり追い詰められる描写が多いです。特に誘拐事件などのトラウマを扱うシーンは、読んでいて気分が悪くなるほど凄惨で、精神状態が良い時にしか読み返せないほど劇薬な作品です。
- ヒロインの夏芽の行動が、たまにあまりに自己中心的で身勝手に見えてしまい、共感できずにイライラしてしまうことがありました。10代の不安定さの表現なのは分かりますが、周囲を巻き込む無責任さに冷めてしまうことも。
- ラストの展開が非常に抽象的というか、読者に解釈を委ねる形になっているため、すっきりとした大団円を求めている人にはモヤモヤが残るかもしれません。物語としての美しさはありますが、好みが分かれる着地点です。
- キャラクターたちの「尖り」が強すぎて、現実味がないと感じる瞬間がありました。彼らの情動に共鳴できれば傑作ですが、一歩引いて見てしまうと、ただのワガママな若者たちの暴走に見えてしまう危うさがあると思います。
- 一部の絵柄が非常に荒々しく、何が起きているのか把握しづらいコマが散見されました。勢いは感じますが、少女漫画らしい繊細で綺麗な描写を期待していると、その作風の激しさに戸惑ってしまうかもしれません。




